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Marc Janssenに訊く プロ・レコードコレクターの仕事

先日あらためてモータウンのレコードコレクションについて調べていると、前回オランダ・ユトレヒトで行われたメガ・レコード&CDフェアでモータウンのレコードのコンプリート・コレクションが展示された際の写真を見つけました。このコレクションの持ち主は、オランダ人レコード・コレクターのMarc Janssen氏。調べてみると「Disco: An Encyclopedic Guide to the Cover Art of Disco Records」という書籍に採用されている写真のほとんどが彼のコレクションのものであることがわかりました。なんだか興味がわいてきたので、彼に会い、どのようにしてこれだけの高価なコレクションを収集したのか尋ねてみました。

Marc Janssenは単なるコレクターではなく、音楽アーカイヴ(保存)の仕事に携わるソウル・ファンクの専門家でもあります。手を尽くしてMarcと連絡をとり、なんとか彼と会うためにオランダ南部への旅を計画しました。私が到着すると、彼は同居人と「Rhyme」、「Rhythm」、「Funky」、「Tommy」というなんとも陽気な名前の愛くるしい猫たちと共に、私をあたたかく迎えてくれました。一緒にお茶をすすりながら、Marcの案内で地下倉庫にある色とりどりの目の眩むようなレコードコレクションを眺めていると、我々はさらに打ち解けていきました。地下倉庫の棚は数え切れないほどのレコードで埋め尽くされていました。それらのレコードはシステマティックに管理されています。ほとんどの棚では、レコードの表ジャケットが正面を向くようにディスプレイされていて、アートワークが大切な作品の一部として捉えられているという印象を受けました。Marcの説明では、そのようにディスプレイされているレコードの数々は、彼が最近手に入れたレーベルの全コレクションで、このような形で棚に陳列することでその全体像を把握することができるのだということです。

あなたのコレクションがどのようなものなのか教えてもらえますか?

ー ソウル・ファンクのコンプリートコレクションです。主に集めているのはソウル・ファンクのレコードで、そこに少しずつフュージョン、ジャズ、ディスコなどのジャンルのものが加わってきています。どのコレクションもできる限りコンプリートさせることを目指しています。ある作品に対して、そのアーティストやプロデューサーがいくつかの異なるリリースをしていた場合、それらもコレクションの対象としているので、つねに自分のコレクションに加えられる新しいリリースはないだろうかと探していますね。

レコード収集をはじめてどれくらい経つのですか?

ー 私が最初に手にしたレコードは、両親に買ってもらった「Saturday Night Fever, the soundtrack」です。姪と一緒に観に行った映画のポジティブな曲調が気に入っていました。すると、両親がレコードを買ってくれたのです。自分でレコードを買い始めたのは、自分自身で多少のお金を手にすることができるようになってからですから、80年代前半でしょう。たぶん、1980年だと思います。

ご自身ではじめて購入したレコードは?

ー Rick Jamesの「Superfreakだと思います。私にっとて、なんだか特別なレコードだったのです。

レコードのコレクションを始めたきっかけは?

ー ちょっと変わっているかもしれません。私は、バンドを組んだりして音楽に入れ込んでいる周りの多くの子たちと同じように音楽が好きでした。同世代のこういった友人たちの多くには年上の兄弟や姉妹がいて、彼らの家を訪ねるとその兄弟たちがいつも「このグループはほかにもレコードを出しているよ」、「このギタリストがソロで出しているレコード、知ってる?」などと教えてくれるのです。今のようにインターネットがない当時は、こういう情報を得ることは簡単なことではありませんでした。そういう状況で、私はある特定のアーティストを追いかけるというよりも、たくさんの音楽を聴いて幅広いビジョンを持つことに喜びを覚えるようになりました。それが大きなポイントだったと思います。たとえば、あるグループが新しいアルバムを出したと聞くと、私はレコードショップへ行ってそれが入荷しているかと尋ねます。ショップスタッフがその作品はあまり良い出来ではないから勧めないと言っても「でもそれを聴きたいんです!」と食い下がりました。訪ねたお店に目当てのレコードが入荷されていない場合には、その店のスタッフが別のお店を教えてくれました。今となってはワンクリックするだけで、こういった情報やレコードは全て見つけられたりしますけどね。

あなたはMotownPhiladelphiaStaxといったレーベルをはじめ、プライベートレーベルを含む大小様々なコンプリート・コレクションをお持ちですね。その中でとくに揃えにくかったリリースは何かありましたか?

ー インターネットでの注文ができるようになってからはだいぶ簡単になりましたね。リリース当時から希少な作品を除けば、ほとんどのリリースはインターネット上で見つけることができるでしょう。80年代から90年代前半にかけては、インターネット上でのビジネスはありませんでした。海外のセラーと連絡を取るには雑誌『Goldmine Magazineに掲載されている各ショップのメール・オーダーリストで連絡したいショップの情報を確認していました。当時はこれがレコードを買ったり、レアなリリースを見つける方法だったのです。

90年代に入ると、レコードを買うためだけに3週間に一度の割合で、週末はアメリカへ行くようになりました。金曜日に仕事を終えて、アメリカで週末を過ごし、月曜日にはオランダへ仕事に戻るという生活でしたね。自分で広告記事も作りました。フィラデルフィア、ボルティモアエリアに友人がいたので、彼に電話して「背の高いオランダ人がソウル・ファンクのレコードを買いたがっていると新聞社に連絡して、広告を載せてもらってほしい」とお願いしました。友人は私の広告に対する返事をまとめてくれて、私がアメリカに着くといつもバンで迎えに来てくれました。そして連絡をくれた人々の住所を次々と訪ねて、彼らの家でレコードを買いました。そして、月曜日には私はまたオランダへ仕事に戻っていたのです。

こんな感じで当時過ごしていましたが、実際それがもっとも安価に自分の求めるレコードを入手できる方法だったのです。先日、LAでの滞在中にMotownファミリーの一員が「Thriller」のアルバムを私にくれたのですが、アルバムを手渡しながらその人はこう言いました。「これはMichaelが私の元を訪ねて手渡してくれたレコードなんだよ」と。こういった良い思い出話もありるんですよ。そういえば、ご質問は手に入れにくかったレコードについてでしたね。思い出せるのは、1984年か85年に最終的に100ドルを払って手に入れた一枚のことです。当時の私にとっては$100ドルという金額は非常に大きかったのです。それはGift Of Dreams LP の「The Giftで、長年探していても一度も巡り会うことができなかったレコードでした。今ではレコードを探す際には主にDiscogsを利用しています。私が探しているレコードは、Discogs上にないことも多々あるので少し難点ではありますが。

レコードコレクションのために世界中を旅することになったというわけですね。

ー おもしろかったのは、CDが普及するにつれて多くのコレクターがレコードを売り始めたことでした。みんなレコードを手放したくなったのですね。ある時などは、アムステルダムの図書館へ行って自己紹介をし、もし倉庫に眠っているレコードがあったら興味があるということを伝えました。ちょうど図書館ではCDのコレクションを増やしているところだったので、一枚50セントでレコードを譲り受けることができました。なかにはBlue Noteのレコードなんかもあったんですよ!アムステルダムにはインポートものが揃うBoudisqueというショップがありましたし、ファンクのセレクションが充実したショップがベルギーにもありました。(オランダ最南部の州)リンブルフに住んでいて良かったと思えることの一つは、多くの米軍基地が周りにあることです。というのも、オランダではライブを行ったことのないバンドが米軍基地を訪れて演奏することがあり、招待されればライアを見ることができるのです。実際にThe Gap BandBar-Kaysなんかを見ましたね。80年代にはこの地域のほとんどのクラブでは、Meat LoafStatus Quoなどの「トップ40」モノがプレイされていたのです。しかし、軍の基地という性格上、ファンクやソウルといったいわゆる「ブラック・ミュージック」がプレイされる場所がいくつかあったのです。それは、私がファンク・ソウルのミュージックを知るきっかけとなり、そして私の一番好みの音楽だったのです。

もう少しあなたのコレクションについて聞かせてくれますか?

ー ここにあるたくさんのコレクションは、Baby Grandレーベルからリリースされた脱税目的でリリースされたレコードです。このコレクションはほぼコンプリートできています。これらのほとんどは同じミュージシャンが製作したもので、その一時代に彼らは120ものレコードをリリースしました。Brian EnoDavid ByrneTotoThe Eaglesなどのミュージシャンが参加しています。これら100作品にものぼるレコードは、プレスされるやいなや廃棄されました。こういったレコードに関しておもしろいのは、製作するアーティストが「ヒットするような良作を作らないように」と指示を受けているところです。実際これらの作品を聴いてみると、アーティストがまったくプレッシャーを感じずにのびのびと演奏しているせいで、なかにはものすごく良いものもあるのです。ただひたすらに演奏を楽しんで、ミスもそのまま収録されています。この不完全性が、私にとってはむしろ完全さとして聞こえます。昨今流行りのタレント番組から生まれるティーン向けの「バブルガム・ポップ」のようなブランディングされた音楽とは一線を画しています。ここにあるレコードはそういった製品としての音楽とはまったく異なるものなのです。3分40秒の”製品”が巷に溢れているのに対して、これらのなかには12分にもわたる長曲も収められています。そして、ここにあるコレクションのほとんどのアーティストが、音楽業界において活動期間40年余りにして今日も現役で、いまだによく知られて人々なのです。

Marcは、もしかしたら自分はレコードそのものよりもレコードの裏に隠されたストーリーに心惹かれているのかもしれないと話してくれました。彼は世界中の音楽ビジネス関係者とのネットワークを持っていて、方々へ出向いて人々と話し、疑問に思うことを尋ねてはレコードに関するストーリーを集めているようです。「人と人を結びつけるのが好きなのです」と彼は言います。Marcは、その仕事をあまり認められていない作詞・作曲家やミュージシャンに好意や興味を抱きます。たとえばライブラリー・レコーディング作品の製作者。曲の権利が売られてしまったが最後、作品を作った当の作詞・作曲家はその曲に対するあらゆる権利を失います。例として、彼は小規模なシリーズものとして彼がリリースしたCD「The Organ Grinder」を聴かせてくれました。

ー このように月日を重ねてきて思うのは、人々が認識している音楽シーンにおいて音楽制作に真摯に向き合っている人間はほんの僅かで、本物のミュージシャンのほとんどはスポットライトの外にいるのだということです。だからこそ、彼らの生み出す作品は途方もなく素晴らしく、長年に渡って輝き続けているのだと思います。アーティストがひとつ大きなヒット作を世に放つと、それを苦ともせず何十年にも渡って演り続ける、というのはよくあることですね。そうなる状況は理解できるのですが、見ていてある種の挫折感を感じますし、そうしたことよってアーティストの成長が妨げられているように思えます。そういったアーティストたちが、音楽的にいったい何か別のものを作れるようになるのだろうかと疑問に思ってしまいます。一方で、例えばLamont Dozierのようなアーティストはいまだに日に3曲の新作を書き続けています。また、ダンスミュージックや革新的なポップミュージックの世界で、大変な貢献をし続けているにも関わらず、認知度の低い人々も存在します。

Atlanta Sound StudiosのオーナーであるCalvin Arnoldは、1970年代前半にニュージャージーのスタジオSoap Factory滞在中に彼が体験したディスコブームの幕開けの様子を私に話してくれました。「Marc、音楽が止まらなかったんだよ。ひとつのレコードを撮り終えると、そのまま同じビートがとっかかりとなって次のレコードになってしまうんだ。とてもシンプルで、まるで機械的なルーティーンだった。歌ったり演奏してはなかなかそうはいかないけれど、そのスタジオで作業するといとも簡単に作品ができていったんだ」スタジオミュージシャンたちやサウンドエンジニアであるBarney Conwayと共に、Calvinは長尺のダンスミュージックの製作に取りかかりました。Soap Factoryで、自分たちがやれることを全て注ぎ込み、7分にもわたるシングルも製作しました。Barneyは製作当時を振り返ってこう言います。「元のレコーディングは少々熱すぎる感じだったけれど、ミックスの段階でマスターリリース用に音を抑えたんだ」最終的には、12インチにプレスする際にグルーブを広げられたことでだいぶ聴きやすい音になったそうです。

ここには1973年にリリースされたその12インチシングルがあります。Calvinから直接頂いたものです。いつ、どのようにして作品が製作されたのかを記した紙切れが一緒に入っていて、この12インチについて次のように書かれています。「私たちの最新シングルのステレオバージョンは、33 1/3回転の12インチ盤でリリースされています。以前あなたに指摘されたように、回転数を45回転に変えなければならない必要はないし、何回も針を落とし直さなくてもい良いんだよ。」私が持っているレコードには、このようなおかしなエピソードが多々あるのです。

「建築物が凍った (形を有した) 音楽であるのなら、音楽は流動的な(形を有さない)建築物なはずだ。」ークインシー・ジョーンズ

現在、Marcは様々なグループのコンサルタントとライセンサーとして活躍しています。彼の次なるプロジェクトは、彼が知る、まだ世に十分に認知されていないアーティスト達をもっと表舞台に立たせ、マーケティングや流通リソースが十分ではなかったためにお蔵入りとなっている素晴らしい作品が日の目をみるように活動を続けていくそうです。今後、映画や書籍といった形で、彼のプロジェクトを我々が目にすることがあるかもしれません。いずれにしても、Marcからのニュースは今後も絶えることがないでしょう。

2014年にユトレヒトで行われた”Record Planet Fair”で展示されたMarcのモータウンのコンプリート・コレクション

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